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2008年10月29日 (水)

マスコラボレーションとオープンイノベーション

前記事の翌週に配信しました。

https://www.ciolinks.jp/journal/detail.php?id=1538

マスコラボレーションとオープンイノベーション

2001年、CEOにA.G.ラフリーが就任した時期、P&Gの売り上げは大きいものの、成長は鈍化していた。マーケットは飽和状態で、これまでP&Gの指示で売り場を提供していた小売店に代わり、大型の小売業が力をつけてきたためにP&G側からの「指図」が効かない状況になりつつあった。
ラフリーはCEOに就任するとすぐにデザインとイノベーションを統括する副社長職を新設してクロウディア・コチャカを抜擢した。コチャカはこれまでは行われていなかったデザイナーと研究開発の担当者が直接仕事を行うコラボレーションを推進した。それは「コネクト+デベロップメント」という構想として実を結んでいる。

その象徴的な製品事例としてスウィッファーが上げられる。P&Gは先のコラボレーションに加え、外部のデザイン・コンサルティング会社のデザイン・コンティニアムと共同で従来のモップにイノベーションを加えた。現場観察を繰り返し、研究開発の担当者と議論をし、従来水で掃除をしていたモップに代わり、水を使わずに静電気で埃をとるモップを市場に出したのだ。現在このモップは75億ドルの売り上げをあげており、最も利益率の高い製品の一つになっている。

そしてラフリーは更に2010年までに全ての新しい製品や技術の50%を社外で生み出すという目標を立てた。その成功例として有名なのがポテトチップに絵を書く技術の開発だ。社内では難航したこのプロジェクトだったが、ウェブを使ってこの課題に対する解決策を世界から募集したところ、イタリアの小さなベイカリーから返答があった。この技術の貢献によって1年もかけずに、低コストでクイズや豆知識を表面に印刷したプリングルズのポテトチップを発売するができたのだ。

P&Gではこの一連の取り組みの結果、研究開発の生産性が60%上がり、イノベーションの成功率が倍となり、一方でコストは低下したと発表されている。ラフリーは「コラボレーションをよくする企業とは、すなわちすばらしいアイディアを生み出し、見つけ、応用することに長けている企業であり、長期にわたって成長を維持できます。」と語っている。

オープンイノベーション
マッキンゼーの調査では、261品目の製品を調査したところ、従来の製品の延長線上で作られた製品は89品目ありながら、それぞれの製品は同カテゴリーにおいて、売り上げに平均1%しか貢献していない。一方で顧客価値を提供できるイノベーティブな製品は3品目しかないにもかかわらず、平均26%の貢献をしている。
市場は低価格なコモディティー商品と、顧客価値を持った高付加価値製品(イノベーティブな製品)に二分されようとしている。どちらが企業収益により大きな影響を与えるかは先の調査結果から自明の理である。
従来の体制、すなわち開発は研究開発部門、市場はマーケティング部門、顧客対応は営業部門、といった枠にとらわれた組織でイノベーションを起こすことにはもはや限界がある。社内外を問わず、コラボレーションをすることによってイノベーションを起こす取り組みが求められており、これを「オープン・イノベーション」と呼ぶ。

ヘンリー・チェスブロウの「オープンビジネスモデル」によると次のような定義がなされている。

1 オープンイノベーションは、社外から社内へ、あるいは社内から社外へと知識を流通させることであり、社内のイノベーションを加速化し、イノベーションの恩恵を外部にももたらして市場を拡大する。

2 オープンイノベーションに取り組むことにより、企業は外部のアイディアや技術を自社の製品やサービスに容易に取り込むことができるようになる。また、社内に眠っているアイディアを他の企業が利用しやすくなる。

3 オープンイノベーションに取り組む前提として、企業は自らのビジネスモデルを変革し、外部のアイディアや技術を取り込みやすいようにする必要がある。一方で、社内の知識を外部においても利用しやすいように体制を整える必要がある。
 
これを実現するためには、先のP&Gの事例でもわかるように2つの取り組み、あるいはその両方が必要となってくる。マスコラボレーションと社内コラボレーションだ。

マスコラボレーション
一口にマスコラボレーションと言ってもいくつかのカテゴリーがある。ここではドン・タプスコットの定義(著書ウィキノミクス)から2つを紹介したい。

① アイディアゴラ(アイディアの広場)
インターネットを活用して、世界中の知恵を活用する「課題」と「アイディア」のマッチングを行う市場のようなものと理解していただきたい。

アメリカの大手医療品会社のイーライリリー社は2001年に「イノセンティブ」を立ち上げた。これは企業側が「シーカー(seeker)」として解決したい課題を提示すると「ソルバー(Solver)」つまりネットに参加している科学者や研究者が応募出来る仕組みだ。その懸賞金は5000ドルから100万ドルまで、案件によって与えられる。現在ではボーイング、ダウケミカル、デュポン、P&GそしてSAPなど幅広い業種の企業が活用をしている。こういった取り組みはイノセンティブだけでなく、多くの市場提供者が生まれている。たとえば退職者のみを対象とした「ユアアンコール」などユニークなものもある。アイディアゴラとはアテネ時代の「アゴラ」(活動の拠点であった広場)を使った造語だ。市場に場を提供し、様々な課題を解決して、より早く効率的に市場に商品を提供できる可能性がある。

② プロシューマー
アルビン・トフラーが著書「第三の波」で使ったConsumer(消費者)とProducer(生産者)を組み合わせた造語。最近ではエリック・フォン・ヒッペルが著書「民主化するイノベーションの時代」で、リードユーザーがイノベーションを起こしている事例をたくさん紹介している。リードユーザーとは、ユーザー自身が自分のニーズを満たすために商品を改良する人たちである。ヒッペルは、リードユーザーが改良したもの(つまりユーザーによるイノベーション)はより市場で受け入れられる、としている。

日本での事例を紹介したい。

エースコックではMixi(日本最大のSNS)の公認コミュニティーとして「カップめん開発オーディション」を立ち上げた。現在ではこのコミュニティーに4228名(10月24日現在)の参加がある。このコミュニティーではカップめんとカップはるさめ部門で様々なアイディアを募集し、数百におよびアイディアが提案された。そして「黒石名物・つゆ焼そば」と「カレーラクサ春雨」が商品化された。ここでは商品の中身のみならず、パッケージやキャッチコピーに至るまで消費者の意見を中心に商品化に活かされた。現在では更に4つの商品が同様の方法で企画されている。

社内コラボレーション
GEのCEOジェフ・イメルトは、もはやシックス・シグマだけでは21世紀にGEが生き延びていくには不十分と考えていた。シックス・シグマは生産性と効率性の向上では多大な貢献をしたが、「顧客の視点でものを考える」には新たな方法が必要であると模索して、社内の研究部門と市場のニーズを結びつけるために50億ドルの予算で80のプロジェクトを立ち上げた。
これまでGEは環境汚染を犯している側の企業であったが、イメルトはエネルギー会社や重化学工業会社のトップ達が環境に配慮した技術を求めている事を知った。これまでは高価なガスタービンを回す発電設備をGE側の思いで作って売っていたのだが、現在では風力発電や太陽熱発電と領域を広げて売り上げを大きく伸ばしている。

社内ではイノベーションを推し進めるための専門の役員を採用してCENCOR(Calibrate, Explore, Create, Organize and Realize)という活動として取り組んでいる。CENCORでは①市場観察、②仮説構築、③デザイン、④市場での検証、というステップで商品を開発する。そのためには組織の壁を低くして、創造的な組織を構築してマネジメントを行っている。

まとめ
市場で新たなイノベーションを起こすためにオープンなコラボレーションが大変有効な手段であることを述べてきた。そのためには企業の持つ課題のみならず知的財産の扱いを思い切ってオープンにすることが出来るかどうか、が成功の秘訣だ。また社内にある様々なアイディアや経験をひとつにとりまとめてコラボレーションを行うような環境作り。そのための組織のあり方やコミュニケーションの取り方に革新が必要になってくる。
そして忘れてならないのが「顧客視点」に基づいた商品開発である。
テクノロジーを活用したオープンイノベーションの取り組みはもうすでに市場では成功をおさめ始めている。

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